水没ワンダーランド

「…お前、誰だよ?」


「僕?僕はチェシャ猫。それより、なち、帰ってきたらまずはタダイマだよー」


微妙に会話が噛み合わない。

先刻会ったばかりのクイーンと雰囲気が似ていることに気づき、那智はこの猫も異世界から来たのだと確信した。



「なんで俺の部屋にいる?」


「なちが帰ってくるのを待ってたからだよー」


「なんでテレビ見てんだよ?」


「楽しそうだからつけてみたけど、これなんにも映らないね」


チェシャ猫は淡々と言ってのけた。

今日は疑問ばかりを口にしている気がする。
いつもの那智なら、プライドが邪魔して、他人に教えを乞うなどということは滅多に無いのだが。


「……しかも、何、勝手に人のアイス食ってんだよ」


猫は手にしていたアイスクリームと那智を交互に見比べた。



「あ、これアイスって言うんだ。おいしいね」



どこから食べているのかは謎だが、糸で縫いつけられた口の周りをクリームでベタベタにしながら、のっそりと猫が立ち上がった。



190cm以上あるだろう猫が立ち上がると、きぐるみの鼻や目や頬に無駄な影が映って余計に不気味だ。


「もう会うことなんてないと思ってたよ、なち」

「……は?」


那智は目を丸くする。


以前、どこかで会っただろうか。
いや、会っていない。こんなインパクトの大きすぎる猫なら一目みただけで記憶にトラウマとして焼き付けているだろう。



「……よくわかんねえけど、お前もクイーンと……同じ……って…」


「……?どしたの?那智」



猫が首をかしげる。

那智がヒッと声にならない悲鳴を上げた。




「ちょっ!!糞猫!!アイス、アイス垂れるって溶けてる溶けてる!向こうむけ向こうむけむこ…ぎゃああぁあ冷たいィィィ」



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