水没ワンダーランド
「……どこだ…?ここ……」
見渡す限り、草、草、草。
小高い丘がいくつも連なっている巨大な草原。
人影はもちろん、小鳥のさえずりや虫の声すら皆無だ。
那智以外に、人の気配が全くしない。
「ここが、“異世界”…?」
意外だった。
クイーンやあの猫を見ていると、もっと殺伐として奇妙で不気味なところだと思っていた。
この明るい草原が、人の汚い感情や社会の歪みを吸い集めて形成している世界とは到底思えなかった。
「チェシャ猫ー?どこにいるんだよ!」
声を張り上げる。しかし、返事はなく、那智の声はだだっ広い草原に空しく響くだけだった。
仕方なく、草原を下り始める。
「え…!?」
二歩目を踏み出した瞬間、那智の視界が反転した。