水没ワンダーランド
「……おはよう、ございます…」
女の子は寝ぼけ眼をこすりながら、つぶやいた。
消え入りそうな声だが、眠気を帯びながら透明感のある心地いい声。
純白のワンピースと、サンダル。
毛先にいくに従い緩いウェーブを帯び、柔らかなAシルエットを描いているたっぷりとした栗色の髪。
天使が本当にこの世に存在するなら、きっとこんな姿なんだろうと那智はぼんやり思った。
「…あのう……?」
女の子が那智を見て首をかしげる。那智はあわてて目を反らし、罰が悪そうに頬をかいた。
「あ、いや……別に……起こしてごめん」
本当はこんな場所で眠っている彼女が悪いのだが。
(……っていうか、誰?)
那智の疑問をよそに女の子はふわりと微笑み、立ち上がる。
身長や顔つきから見て9、10歳といったところだろうか。
女の子は自身の小さな手で、ワンピースについた草を丁寧に払い始めた。