水没ワンダーランド

「ああっ!ひ、ひどいです!」


「寝てろ。お前は一生ここで寝てろ」


「え!?嫌ですよ。お腹も減りましたし」


「知るか!」


「記憶もないし、困ってるんです。那智さんはこれからどこに行くんですか?」


女の子の目は期待でキラキラ光っている。那智はうんざりして、なるべく目を合わせないようにした。


(絶対、ついてくるつもりだな…)

「どこに行けばいいのか俺もわかんねえ」


「……へ?もしかして那智さんも記憶喪失?」


「違うっ!いきなりこんなとこに連れてきた猫を探してんだよ!」

「那智さん、怒鳴りすぎですよ。そんなに叫ばなくても聞こえますって」


那智は女の子を完全無視して、サクサクと丘を登っていく。


さっきは何も見えなかったが、もう一度高いところから辺りを見回してみようと思ったのだ。


あの赤いシャツを着たチェシャ猫なら相当目だつはずだから、もしかすると見つけられるかもしれない。


那智の後ろを、サンダルでよたよたとつんのめりそうになりながら女の子が追ってくる。


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