水没ワンダーランド
「ねえ、那智さん?何か見えますか?」
「うるさい。気が散る」
丘の頂上に立って、あたりを見回す。
視力がそれほどよくない那智は、目を細めて出来る限り遠くを見渡そうとした。
「くっそ、なんも見えねえー……」
チェシャ猫が着ていたTシャツの赤色なんでどこにも見えやしない。
見渡す限り、草、草、草。鳥もいなければ虫もいない。
これだけ広大な場所に二人だけしか居ないとなると、寂しいというよりもなんだか不気味だ。
草。
草。
丘。
草。
馬。
草。
草――…
「……は!?」
慌てて那智が視線を草原に戻す。
草ばかりの景色の中に、何かが、いた。
「……どうしたんですか、那智さん?」
那智は答えない。
視界にうつった一瞬の違和感を求めて、目を凝らす。
馬、だ。
草原にポツンと馬かたたずんでいる。
しかも、普通の馬じゃない。
というよりも、あんなのが普通の馬なはずがない。
那智は一瞬、頭の中が真っ白になった。
(う、ま……?)