水没ワンダーランド
馬だ。確かに、パッと見ればそれは馬なのだ。
しかし、それは足や腹だけを見れば、のことであって。
下半身は馬で、上半身は人間なのだ。
那智は一瞬、ギリシャ神話の幻獣「ケンタウロス」を思い浮かべたが。
那智が想像していた神秘的なケンタウロスとは決定的な違いがある。
上半身の部分が、明らかに人骨でできている。
「……」
那智は少し押し黙った。否、思考回路が強制的にストップした。
そのとき。
骸骨ケンタウロスとばっちりと目が合った。
那智は、やっとのことで消え入りそうな声をしぼりだす。
「おい」
「な、なんですか?」
骸骨ケンタウロスに気づいていない女の子は、不信そうに那智を見上げる。
「……逃げるぞ」
那智がつぶやき、弾かれたように走り出す。
その直後だった。
骸骨ケンタウロスが、全速力で那智たちの方へ走ってきたのは。