水没ワンダーランド
スージーとチェシャ猫は、呆れるほど長い廊下を突き進んでいた。
最初の内は那智を探すため意気込んでいたスージーだが、足に疲労が溜まるにつれ段々と表情が暗くなっていく。
赤絨毯と薄暗い照明ばかりの景色が、余計にスージーの気を滅入らせた。
「この廊下……いつになったら終わるんでしょうか……」
「さあ」
「こんなところに住んでるなんて、よほどのお金持ちなんでしょうね。……広すぎますよ!」
「フローレンスがー、建てたんだよー」
「え?……猫さん、この屋敷のこと、知ってるんですか?」
スージーが赤絨毯の上をサンダルでモフモフと歩き、その後ろをチェシャ猫が履き古したスニーカーで足音もなく歩く。
歩く、というよりは滑るに近い。
「知ってるよ。外に出るのが怖くてー、家の外周も全部全部買い占めてー、全部自分の屋敷に取り込んじゃったんだよ。
結局、屋敷の中で迷って餓死しちゃったんだけどね」
「……それは、お気の毒というか何と言うか…」
スージーがなんとも言えない苦い表情をするが突然、ハタ、と立ち止まりチェシャ猫を振り向く。
「ちょっ……そんなにも広いんですか!?私たちも餓死しちゃいますよ!」
「大丈夫だよー、ホラ」
チェシャ猫がスージーの背後をゆっくりと指差す。
つられてスージーが視線を追うと、壁にドアが取り付けられていた。スージーの頭の上辺りにプレートがかかっている。
暗いせいでよく見えず、スージーは目を凝らす。
「スタッフルーム…?」
スタッフということは、あのドードー鳥の執事たちがいるのだろうか。
あまり会いたい相手ではなかったが、ひたすら廊下を歩き続けることも耐えがたい。
スージーがドアノブを握る。
「鍵…かかってませんね」
ドアが、開いた。