社内恋愛のススメ



珍しい。

こんな上条さんを見るのは、初めてかもしれない。


上条さんは、いつだってスマート。

どんなに緊急事態でも、慌てたりなんかしない。

走ったりなんかしない。


そもそも、慌てる事態に陥らない様に、最善の策を準備する人だから。



そんな上条さんが、汗をかいている。


汗をかくほど走って、ここにいる。



(私の為………なの?)


あの上条さんが、私の為に走ってきて。

仕事だってあるのに、私の為に時間を作ってくれて。


信じられない。

信じられなくて、キツネにつままれた気分だ。



私にとって、上条さんはとても大きな存在。

上条さんは、私にたくさんのことを教えてくれた。


仕事のこと。

社会人としての常識。


入社したばかりの私に、社会人としてのイロハを教えてくれた人。


社会人になってから、初めて好きになった人。



上条さんにとっての私って、どんな存在なのだろう。


それなりに価値のある、そんな存在になれたのだろうか。

走ってくる価値があるくらいの存在には、なれたのだろうか。




ドキン。

ドキン、ドキン。


上条さんが近付くほどに、私の心臓が勢い付く。



距離が近付くことに対しての喜びと。

これからするであろう、話の深刻さからくる苦悩と。


上条さんに対して感じている、愛しさと。

文香さんに対して抱いてる、嫉妬と。



様々な感情が、私の中でせめぎ合う。

上条さんが歩み寄るほどに、嵐となって吹き荒れる。



< 124 / 464 >

この作品をシェア

pagetop