社内恋愛のススメ



この手の中に閉じ込めて、大切に大切に育てていきたかった。


でも、それはもう出来ない。

きっと、出来ないこと。


何も話し出さない私を見て、上条さんの方が先に口を開いた。



「実和、話って?」


そう尋ねた直後に、上条さんは考え込む。

大きな手で口を覆い、ほんの数秒、無言になる。


沈黙が、長く感じる。

いつもよりも、ずっと。


その無言の時間は、何よりも長く感じた。



「僕も、実和に話があるんだ。」


そう言った上条さんの目は、いつも以上に真剣なもので。

見ているこっちが逸らしたくなるくらい、真っ直ぐで。


思わず、スッと目を逸らす。



「………。」


上条さんの目を見るのが怖い。


文香さんのことを聞いたら、どんな顔をする?

どんな目をする?

文香さんのこと、どう思ってる?



それが知りたい。

ずっとずっと、知りたかった。


文香さんの存在を知った、あの雨の日から。



知りたいからこそ、今日、ここに呼び出したのだ。


でも、怖い。

いざとなったら、その答えを知るのが怖いなんて。



恋って、人を臆病にする。

こんなにも変えてしまう。


いつもの明るい私は、今はどこにもいない。

長友くんの前みたいに、元気に振る舞えない。


スーッと深呼吸をしてから、私は言葉を刻んだ。



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