社内恋愛のススメ
「………あの人は、誰なんですか?」
あの人。
その言葉が指すのは、1人だけ。
今、目の前にいる上条さんの婚約者だと、そう名乗った女性。
企画部のみんなの前で、ハッキリと宣言した女性。
私の大好きな人を、私の恋人を婚約者だと言った人。
私の言葉は、予想の範囲内だったのだろう。
上条さんの表情は変わらない。
眉も、ピクリとも動かない。
滲んでいた汗も、今ではすっかり引いている。
上条さんの口から、ゆっくりと彼女の存在が語られた。
「彼女は、文香は………取引先の社長のお嬢さんだ。君も、この間、見ただろう?」
「ええ、見ました………けど。」
見たくなんかないのに、見てしまった。
そう言う方が、正確だろう。
すぐに思い出せる、美しい人。
サラサラの黒髪。
日本人形みたいな艶やかな黒髪は、触れたら切れてしまいそうなほどに細くてしなやか。
漂う気品は、生まれついてのもの。
内側から溢れ出るもの。
男っぽい私とは、正反対。
大和撫子と言い表すのがピッタリな人。