社内恋愛のススメ
次の瞬間に、頬に冷たさを感じた。
固くて、冷たいもの。
それは、缶コーヒー。
社内の自動販売機で売られている、有名メーカーのコーヒー。
いつも私が愛飲している、コーヒーの中の1つ。
それを押し付けた長友くんは、悪戯をした子供みたいに笑ってる。
今度は、疲れた笑顔じゃない。
素顔の、長友くんの本当の笑顔だ。
「やるよ。」
「え………?」
「頑張ってる独り身の有沢さんに、俺からのご褒美。」
普段は、有沢さんなんて呼ばないクセに。
有沢って、そう呼ぶクセに。
私のことをわざとらしく有沢さんなんて呼びながら、私をからかって遊んでる長友くん。
だけど、どうしてだろう。
何故か、心音が速くなる。
ざわつく。
(な、何………なの?)
何故。
どうして、こんな風になるの?
「ほんと、バカ。お前だけ残して、俺が帰る訳ないだろ。アホか。」
長友くんの言葉が、頭の中に響く。
響いて、グルグル回ってる。
深い意味なんてないはずの言葉。
同僚として。
残業組に選ばれてしまった同志として、かけてくれただけの言葉。
それなのに、やけにその言葉が心にまで響いてくる。
そう、意味なんてない。
あるはずがない。
それなのに、どうしてこんなに落ち着かないの?
どうして、こんなに長友くんの言葉が気になるの?
(まさか………ね。)
この感情に似たものを、私は知っている。
だって、つい最近まで、別の人に抱いていたものだから。