社内恋愛のススメ



他の人じゃ、ダメなんだ。

嫌なんだ。


他の誰でもない、長友くんに助けて欲しいって思っていた。



嘘みたい。

信じられない。


まさか、長友くん本人が現れるなんて。



カツ、カツ。


長友くんの革靴の音が、静けさで支配されていた会議室を乱していく。

波紋みたいに広がっていく。


この空気を変えたのは、長友くん。



会議室に入り込んだ長友くんが、私と上条さんの座る席まで辿り着くのに要した時間はほんの数秒。

長い様で短い、数秒間。


長友くんは真っ先に、私の手に重なったままの上条さんの手を払い除けた。



パシンと、大きな音とともに、上条さんの手が払われる。


軽い衝撃音。

私の手が感じていた、重みが取り払われる。


軽快なその音が、私を現実へと引き戻してくれた。




「な、長友………くん………。」


長友くんを呼ぶ声が震える。

震えて、途切れて、私の唇から漏れる。



長友くんによって解放された、私の体。

金縛りにあっているかの如く、ガチガチに固まっていた体が動き出す。


自由になる体。

弾かれた様に、私はようやく椅子から立ち上がることが出来た。



「有沢、こっちだ。」


私を隠す様に、自分の後ろへと誘導する長友くん。

長友くんの広い背中が、私と上条さんの間を隔てる。


あの上条さんから、私を遠ざけてくれる。



私は、1人じゃない。

1人で、上条さんに立ち向かっている訳じゃない。


そう思うだけで、心強く感じるのは何故だろうか。



長友くんの背中が、いつもよりもたくましく見えた。



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