社内恋愛のススメ
シーンとした、給湯室。
もちろんこんな夜に1歩足を突っ込んだ様な時間に、人の姿はない。
就業時間を過ぎたこの時間帯に、ここを利用する人なんている訳がない。
この給湯室が1番賑わうのは、明るい時間帯だけなのだから。
狭い給湯室に、2人きり。
長友くんの顔が、間近に見える。
いつもよりも近いその距離に、自然と速く脈打つ鼓動を感じた。
ドキン。
ドキン、ドキン。
こういう時に、改めて思う。
長友くんのことが好きなんだなって、そう思う。
昔だったら、意識もしないシチュエーション。
ほんの少し前までの私ならば、気にもしないこの状況に、今の私はドキドキしてる。
緊張だってしてる。
緊張で表情を固くする私に、長友が声を上げて笑った。
「ぷっ、ははは!」
「な、何………よ?」
「情けない顔、してんなーと思って。」
「な、情けない顔って。」
そりゃ、あんなことがあったのだ。
付き合っていた人に、密室内で迫られて。
そこに助けに来てくれたのは、今、好きな人。
危機が迫る場面で、思いがけない瞬間に告白を聞いてしまったのだ。
自分に対する告白を。
そんなことがあったのに、表情まで作っていられない。
平然となんて、していられない。
表情を作る余裕があるほど、私はクールな人間じゃない。
長友くんが言う、情けない顔。
それが、どんな顔なのかは分からない。
どれほど、情けない顔をしているのかも自分では分からない。
(もっと可愛い顔………。)
情けない顔ではなく、可愛い顔。
可愛い顔って、努力をすれば出来るものなのだろうか。
顔に手を当てて、悩む。
だけど、そんなことよりも大事なのは、別のこと。
今の私が考えなければならないのは、可愛い顔ではなくて、もっと別のこと。
もっともっと、大切なことがある。
「関係………ありますよ。」
長友くんが言った言葉。