社内恋愛のススメ
(顔、洗おう………。)
初めて、体を重ねた夜。
そして迎えた、初めての朝。
体を重ねたばかりの相手に言われちゃうなんて、どれだけ酷い顔をしているのだろう。
考えるだけで怖い。
化粧をしたのは、昨日の朝。
会社に行く直前。
直したのは、昼休み。
時間がないから、トイレに行くついでにサッと油取り紙で皮脂を取り除いただけ。
それっきり、顔なんて触った記憶がない。
この数時間、気にすることがなかった顔面。
忘れてすらいた。
そんな状態で、今朝までメイクが保たれている訳がない。
分かってはいた。
分かってはいるけれど、考えたくない。
化粧が完全に落ちた自分の醜い顔が、簡単に浮かぶ。
(あー、絶対眉毛は消えてるな………。)
こんなことなら、会社を出る前に直しておけば良かった。
トイレだと嘘をついて、眉毛くらい描いておけば良かった。
眉毛だけなら、まだいい。
薄く引いたアイライン。
パッチリ目元を演出する為のマスカラ。
いい女と付き合っていたのだと思ってもらいたい。
それだけの為に続けていた、しっかりメイク。
それが、目元を真っ黒に染め上げていなければいいけれど。
(長友くんの反応からすると………全部落ちてそうな気がする。)
そんなことを考えながら、ペタペタと両手で自分の顔を触る。
その時、ふと感じた違和感。
微かに、左手に違和感を感じた。
「………?」
左手。
左手の薬指に、違和感。
昨日まではなかった物体が、左手の薬指に収まっている。
左手をかざして見れば、見えたのはシンプルなデザインのリング。
「な、長友くん。」
「んー?」
「ねぇ、これって、何………?」