社内恋愛のススメ
たくさんのキスが降る。
物足らなくて、もっともっととねだられる。
「長友くん、お酒臭い………。」
シャンパンの香りを纏った長友くんが、また体を寄せる。
隙間なんて、あっという間になくなる。
「そういう有沢は、甘い。チョコの味。」
それは、チョコレートのケーキを食べたからだ。
知ってるクセに。
「たまにはいいな。甘いのも、結構イケるかも。」
そう言った長友くんが、唇を重ねてくる。
息継ぎの為に開いた口から、スッと入り込む舌。
シャンパンの味とチョコの味が、口内で混ざり合うのを感じた。
お酒の味のキスでも、私にとっては大切なクリスマスの思い出になる。
「ははっ、有沢も酒くせー!」
「長友くんにだけは、言われたくないんですけど。」
お酒臭いって、キスをした後に笑ったね。
こういうのが、重要なのだ。
毎日毎日、小さな幸せを積み重ねていく。
積み重ねていくことで、大きな幸せが生まれていく。
それを、この身で実感してる。
大したことではないのかもしれない。
それでも、私には重要なこと。
転機が訪れたのは、年が明けてすぐ。
会社が休みである、1月の週末のある日。
嵐の前触れは、何の音もなく近付く。
長友くんの隣にいて、幸せだった。
長友くんの愛に満たされて、私はその気配にすら気が付かない。
そっと、忍び寄る影。
歯車は、確かにどこからか狂い始めていた。