社内恋愛のススメ
(ついに、この日がやって来たんだ。)
分かっていた。
文香さんがうちの会社に訪れたあの日から、こんな日が訪れるであろうことは分かっていた。
だから、驚きはしない。
焦りもしない。
1ヶ月前。
マンションの郵便受けに届いたのは、ピンク色の封筒。
差出人の名前は、連名でこう書かれていた。
有沢 実和 様
上条 仁
小倉 文香
私の恋人だったあの人と、私から彼を奪った彼女からの手紙。
それは、結婚式の招待状だった。
ピンク色の封筒を、ハサミで切って開ける。
中に入れられた知らせを見ても、全く動揺しなかったのは何故だろう。
予想していたことだからだろうか。
それとも、過去のことだからなのだろうか。
時間が、あの頃の記憶を優しいものへと変えてくれたんだ………きっと。
何も感じなかった訳じゃない。
しかし、不思議と嫌悪感は湧かなかった。
複雑な思いさえ、抱かなかった。
よぎる思い出は、酷く不鮮明なのもの。
楽しかった。
嬉しかった。
あの人と、一緒にいられたこと。
同じ時間を過ごせたこと。
ずっと、それを夢見ていたから。
悲しかった。
切なかった。
未来を、ともに歩けなくなってしまったこと。
同じ道を進めなくなってしまったこと。
それでも、後悔はない。
後悔なんて、していない。