社内恋愛のススメ



(ついに、この日がやって来たんだ。)


分かっていた。

文香さんがうちの会社に訪れたあの日から、こんな日が訪れるであろうことは分かっていた。


だから、驚きはしない。

焦りもしない。





1ヶ月前。

マンションの郵便受けに届いたのは、ピンク色の封筒。


差出人の名前は、連名でこう書かれていた。



有沢 実和 様


上条 仁

小倉 文香



私の恋人だったあの人と、私から彼を奪った彼女からの手紙。

それは、結婚式の招待状だった。



ピンク色の封筒を、ハサミで切って開ける。

中に入れられた知らせを見ても、全く動揺しなかったのは何故だろう。


予想していたことだからだろうか。

それとも、過去のことだからなのだろうか。


時間が、あの頃の記憶を優しいものへと変えてくれたんだ………きっと。



何も感じなかった訳じゃない。


しかし、不思議と嫌悪感は湧かなかった。

複雑な思いさえ、抱かなかった。



よぎる思い出は、酷く不鮮明なのもの。



楽しかった。

嬉しかった。


あの人と、一緒にいられたこと。

同じ時間を過ごせたこと。


ずっと、それを夢見ていたから。



悲しかった。

切なかった。


未来を、ともに歩けなくなってしまったこと。

同じ道を進めなくなってしまったこと。



それでも、後悔はない。

後悔なんて、していない。



< 268 / 464 >

この作品をシェア

pagetop