社内恋愛のススメ



(本社から………、異動してくる人間がいる。)


それって、まさか。

まさか。


その時、私が思い浮かべたのは、誰だったのだろう。


誰かの後ろ姿。

懐かし過ぎるほど、遠くに離れてしまった人の姿。



「………っ。」


短い髪が、明るい陽射しの下でなびく。

サラサラと、風になびいてわずかに揺れる。


落ち着いた色合い。

褐色の日に焼けた肌とよく馴染む、ダークブラウンの髪。



怠そうに、締めているネクタイを緩める仕草。

骨っぽい手。


上条さんほどではないけれど、私よりもほんの少し大きい背。

広い背中。

筋肉質な腕。



そこにいたのは、彼。


今も胸に残る、消えてくれない彼の影。



(な、がとも………くん………。)


長友くん。

長友くん。



会いたい。

会いたいよ。


会えないと分かっていても、私はそれでも………長友くんに会いたい。

長友くんが恋しい。


好き、なんだ。



もう触れることもない手。


抱き合うこともない。

キスをすることも、体を重ねることも、言葉を交わすこともない。



真っ黒に覆い尽くされていく心。

空の青とは対照的なくらい、暗い闇に落とされる。


もう会えないことも分かっている。

そうなったのが、自分のせいであることも知ってる。



しょうがないんだ。

仕方のないことなんだ。


許してもらえるはずがない。

隣にいられるはずがない。


それだけのことをした。

あんなに優しい長友くんを、私は裏切ったのだから。



「………?実和ちゃん、どうかした?」


俯いてしまった私を心配して、桜井さんが私の顔を覗き込んでいた。



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