社内恋愛のススメ
私、ちゃんと普通に話せている?
普段通りに接していられているのだろうか。
桜井さんには、変に心配して欲しくない。
とてもいい人だから。
何も分からない私に、仕事の全てを教えてくれた人だから。
温かいこの人に、私なんかのことで心労を増やして欲しくない。
「まあ、もうすぐ会社だし。どうせ、着いたらすぐに会うことになるんじゃない?」
「………、そうですね。でも、配置される部署が違ったら会えないんじゃないですか?」
「うーん、それもそうね。その時は、偵察に行くまでよ!」
「あははっ、桜井さんらしい。」
桜井さんがそう言って、先に自動ドアの前に立つ。
桜井さんに後ろに続いて、私も自動ドアに近寄る。
私と桜井さんに反応して、自動ドアがサーッと軽やかに開いていった。
すっかり通い慣れてしまった支社。
初めて来た時は、緊張してしまったのをよく覚えている。
どんな仕事をするのだろう。
同じ部署に配属されている人は、どんな人達なのだろう。
ワクワクというよりは、ドキドキ。
ドキドキというよりは、ビクビクしていたのかもしれない。
あのことを知っている人間がいたら、どうしよう。
ここに来る前は、そんなことを心配していた。
だけど、幸か不幸か。
悪い予想は見事に外れてくれて、私に起きた出来事はおろか、私のことを知っている人間すらいなかった。
会社が、上手く隠蔽したのだろう。
あのことが、外に漏れない様に。
これ以上、社員の中に動揺が広がらない様に。
開いたドアの向こうに広がっているのは、ロビー。
本社ほどではないけれど、それなりの広さを有するロビーがある。
ロビーの奥には、受付スペース。
受付スペースには、1人だけ、受付嬢の女の子がいる。