社内恋愛のススメ
本社には受付スペースに数人の受付担当者がいるけれど、ここではそんなこともない。
来客もそう多くはないから、1人で間に合っているという事情もある。
ちょっとした広さのロビーに、1人きりの受付嬢。
ロビーの奥には、エレベーター。
この支社で働く社員は、このエレベーターに乗ってそれぞれの部署がある階へと向かうのだ。
「おはようございまーす。」
いつもみたいに、受付スペースにいる彼女に挨拶をする。
来客の対応中である彼女は、ニコッと微笑んで返してくれる。
ここの支社の人間は、ほんとに温かい人が多い。
本社とは違って人数も少ないから、必然的に大概の社員とは顔見知りになる。
全ての社員を知っているという訳ではないけれど、毎日顔を合わせる受付スペースの彼女とは何度も会話を交わしたことがある仲だ。
薄いピンク色の制服を着て微笑む彼女に挨拶をして、横を通り過ぎようとした時だった。
「………!」
デジャヴューー……
通り過ぎてようとしたのに、足が止まる。
先に進めない。
どうして。
どうして、先ほどの幻が再び私の前に現れるのだろう。
既視感。
確かに見たことがある背中が、受付スペースの彼女の手前にある。
ピョンピョンと跳ねている、ダークブラウンの短い髪。
真っ黒なスーツの、広い背中。
後ろ姿が見えているだけなのに、分かる。
分かってしまう。
だって、入社してから何年も、この背中を見つめてきたから。
この人の隣で、デスクを並べて仕事をしていたから。
知ってる。
知っている。
私、この背中を知っている。
微かに聞こえた、明るく弾んだ声も。
最後に会ったあの日に聞いた声音とは違う、その声も知ってる。