社内恋愛のススメ



まさかーーー………


その可能性を考えなかった訳じゃない。

もしかしたら、と思った。



本社から、人が来る。

異動で、誰かがやって来る。


もしも、それが長友くんだったなら。

そう考えてしまったからこそ、桜井さんから話を聞いた時に動揺してしまったのだ。



だけど、そのまさかが現実になるなんて。

幻が、本物に変わるなんて。


もう2度と会うことのないだろうと思っていた長友くんが、目の前にいる。

会いたいと願っていた長友くんが、今、私の目の前にいる。



会ったら、何を話そう。

そんなこと、考えたこともなかったよ。


もう会うつもりもなかったから。

会いたいと願っていても、会うことはないと分かっていたから。



(………、どんな顔、すればいいの………。)


表情なんて作れないよ。

笑えないよ。


繕うことも出来なくて、歪んでいくだけの顔。



さっきのは幻で、これは現実なのかな?

それとも、今、見ているのも幻なのだろうか。


そうならば、いいのに。

幻である方が、きっと良かった。



(分かんないよ………。)


分からないよ。

長友くんが、ここにいる理由が。


だって、私、酷いことを言った。

長友くんに会った最後の日、私は最低な言葉で、長友くんのことを傷付けた。




「私が転属になる理由は、不倫なんだよ。………相手が誰か、分かる?」


長友くんを傷付ける言葉を、わざと吐き捨てた。


嫌われたかった。

思いきり嫌われて、憎まれて、長友くんの前から姿を消したかった。



許して欲しくなかったんだ。

こんなわたしのことを、一生許さないでいて欲しいと思った。


それが、私に与えられる罰。



愛している人から、憎まれる。

恨まれて、嫌われる。


それだけのことをしたのだから、それが当たり前のことだと思ったのだ。



「嘘だろ?あんなの、嘘だ………。」

「上条さんだよ。」

「………っ、………。」

「相手は、上条さん。奥さんにも会社にもバレちゃったから、支社に飛ばされちゃうんだよ………私。」



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