社内恋愛のススメ



残酷な現実を突き付けた。

長友くんが知りたくなかったであろう事実を、長友くんに最後に告げた。



憎んで。

もっともっと、憎んで。


私のことなんか、大嫌いになってよ。



そして、私のことを忘れて欲しい。


こんな女と付き合うんじゃなかった。

こんな女と付き合い始めたのは、間違いだった。


そう思ってくれて、良かったんだ。

殺したいほど、嫌いになってくれて構わないから。



「長友くん、別れよう………。」


私が告げた、別れの言葉。

大好きな長友くんに告げた、最後の言葉。



「もう、終わりにしよう?」


あの日、確かに私達の関係は切れた。

終わったはずだった。


プロポーズの返事をすることなく、私は長友くんの前から消えたのだ。




「………。」


受付スペースの彼女に向けていた笑顔が、スッと消える。

大好きな長友くんの笑顔が潜んで、その代わりに向けられる真剣な眼差し。



ドキン。


ただ、見つめられただけなのに。

長友くんと、目が合っただけなのに。



ドキン、ドキン。


どうして、こんなにも胸の鼓動が速くなるのだろう。

どうして、こんなにも苦しくなるのだろう。


息をすることさえ、苦しい。

肺に取り込まれるはずの酸素が、そこまで上手く辿り着かない。



1年2ヶ月ぶり。


久しぶりの長友くんは、以前よりもほんの少しだけ、大人びて見えた。



精悍さを増した顔付きに、健康的な肌の色。


ほんのちょっと。

そう、長い人生の中でいえば、1年2ヶ月という時間はとても短い時間だ。



それなのに、もうずっと会っていない様に感じてしまう。

もう何年も、何十年も、長友くんと顔を合わせていない様な気さえしてしまう。


私にとって、この1年2ヶ月という時間は、それほど長い時間だったのだ。



長友くんがいない。

私の隣に、長友くんの姿がない。


それだけで、短い時間であるはずの時間は倍以上に長く思える。



「実和ちゃん、バック落としてるわよ?」


私の少し先を歩いていた桜井さんが、振り返ってそう言った。



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