社内恋愛のススメ
そもそも、長友くんがここにいる理由が分からないのだけど。
どうして、こんな場所にいるの?
本社にいるはずの長友くんが、こんな所にいるの?
支社のロビーを、長友くんに引きずられながら、ほぼ強制的に歩かされていく。
すれ違った桜井さんは何も知らないから、笑顔で私と長友くんのことを見送ってくれた。
「さ、桜井………さん………!」
「積もる話もあるだろうから、ゆっくりしておいで。」
「でも、もうすぐ仕事が始まる時間で………。」
「大丈夫だって。まだ少し時間もあるし、もし遅くなっても部長には適当に誤魔化しておいてあげる!」
有り難い、でも今だけは有り難くない言葉まで頂いて。
桜井さんの姿が、だんだんと遠ざかっていく。
通い慣れたロビーから離れていく。
(どうして、こんなこと………。)
言葉にならない問いかけだけが、頭の中をグルグル回る。
動きが鈍っているのだろう。
突然の再会に驚いて、上手く頭が回らない。
そんな中でもフル回転しているはずなのに、処理が追い付かない。
長友くんの横顔をチラチラと伺いながら、長友くんに言われるままにさらわれていく。
会社には、人の死角になる様な場所がある。
人の目に付きにくい、物陰。
監視カメラも行き届かない、廊下の角。
人が滅多に近寄らない、資料室。
そんな数ある死角となり得る場所の中で、長友くんが選んだのは非常階段だった。
ほぼ全員がエレベーターを使うせいで、外付けの非常階段の存在は見事に社員から忘れ去られている。
この階段の存在を知っている人間なんて、この支社に何人いるのだろうか。
きっと、数人いればいい方だ。
階段があるのだということ自体、私も初めて知ったくらい。