社内恋愛のススメ
長友くんが、階段の場所を知っているのは何故だろう。
私と同じく、ずっと本社勤務だった長友くん。
この支社の入るビルのどこに何があるのか、詳しい位置関係を知っているはずがない。
ここに勤めている人間ですら、知らない様なことを。
初めて来たはずの人間が、どうして非常階段の場所など分かるのだろうか。
(どうして、こんなとこ………長友くんが知っているの?)
抱いた疑問が、顔に出てしまっていたのか。
それとも、私の心のうちなんて見透かされてしまっているのか。
疑問の答えを、長友くんが静かに答えた。
「どうして、こんなとこ知ってんの?………とか、思ってるだろ。」
「………っ。」
その通りです。
長友くんがおっしゃる通りです。
クスクス笑いながら、長友くんが言う。
どうやら、顔に出てしまっていたらしい。
私も大概、簡単な女だ。
「俺、ここに来たことがあるんだよ。」
長友くんが述べたのは、意外な事実。
本社勤務の長友くんが、ここに来たことがあったなんて。
東京から遠く離れた、この支社に来ていたなんて。
私、ずっと隣で仕事をしていたはずだったのに、そんなことも知らなかった。
「3年前かな?こっちの支社の人手が足りないからって、本社から応援に行かされたんだ。半月くらいだけど。」
「そう………だったんだ。」
会社に勤めていれば、部署にもよるけれどそれなりに出張に行くことになる。
本社の企画部は、特に出張が多い部署。
出張に行くことなんて、そう珍しくもない。
私だって何度も出張に行ったことがあるし、それは長友くんだって同じこと。
だから、長友くんの出張先にまで気を配ってはいなかったのだ。
第一、3年前は、私と長友くんはただの同僚でしかない。
仲は良かったけれど、私は別の人を好きだった。
ああ、また出張なんだ。
きっと、それくらいにしか思っていなかったはずだ。
今ならば、そうは思わないけれど。