社内恋愛のススメ
これも、何かの運命なのだろうか。
それとも、因果なのだろうか。
長友くんに縁がある場所に私は飛ばされてきて、長友くんは追う様にここに異動でやって来た。
離れたつもりだったのに。
縁を切ったつもりでいたのに、縁は切れていなかったのだ。
ビルの外側に取り付けられた、非常階段。
重い鉄のドアは無施錠で、簡単に私と長友くんを外の世界へと逃がしてくれる。
歪な音を立てて、開かれていくドア。
ドアの先に広がるのは、味気ない景色。
ビルとビルの間に挟まれた空間。
隣のビルの壁が、すぐ近くに見える。
真下には、自動販売機の列。
ここからではよく見えないけど、きっと飲み物でも売っているのだろう。
ビルとビルの間にある、意外な穴場。
決して、いい景色の場所ではない。
緑もない。
空も、ほんの少ししか見えない。
けれど、誰も来ない場所。
誰にも知られずに、一息つける場所だ。
ビルの谷間にある、小さなオアシスなのかもしれない。
「ちょっと息抜きするには、ちょうどいいだろ?」
長友くんが振り返って、そう言って笑った。
灰色の背景を背に、長友くんの笑顔が花開く。
そこにあるのは、最後に見た顔ではない。
悲しげに歪む顔なんかじゃない。
私の中の長友くんのイメージ、そのままの顔。
この春の陽射しみたいな、温かい笑顔。
長友くんのこの笑顔に、何度も和んだ。
長友くんのこの笑顔に、何度救われたことだろう。
片手じゃ足りないくらい、私は助けられた。
救われていたんだ。
(………、どうして………笑えるの?)
胸が痛む。
キリキリと、悲鳴に近い音を立てて痛み出す。
私、最低なことをしたんだよ。
長友くんに最低なことをして、裏切って、傷付けて。
挙げ句の果てに、逃げ出した。