社内恋愛のススメ
長友くんからも、長友くんのプロポーズからも。
全てから逃げた。
逃げることで、自分の心を守ろうとした。
ずるいんだよ。
長友くんが考えているよりも、私はずっとずるい人間なんだ。
罵られて、当たり前。
嫌われて、当然。
それなのに、どうして。
笑わないでよ。
私に、そんな無防備な笑顔を向けないでよ。
怒って。
怒鳴り付けて。
立ち直れないほど、強く強く。
サァーッと、春めいた風が私と長友くんの間を吹き抜けていく。
春が来たんだ。
冬は、もう終わりを告げたのだ。
冬の厳しい寒さを乗り越え、新たな季節が巡ってきたのだと。
この風が、私に新たな季節を教えてくれる。
すぐそこに来ている春を、この身に感じさせてくれる。
4月の風が吹き抜けた瞬間、長友くんの大きな手が私の頬を撫でた。
「………長友、くん。」
私の手首を掴んでいた長友くんの手が、私の頬へと滑らかに移動していく。
解放された腕。
手首に感じていた圧迫感は、今はもう感じない。
自由の身になったのに、固まったまま。
自分の意思で動ける様になったはずなのに、動けない。
ビクンと、長友くんの手が動く度に反応してしまう。
「緊張してんの?」
長友くんがおかしそうに、目を細めて笑う。
私なんかの為に笑ってはいけないのに、私の前で笑ってくれる。
からかわれた。
そう分かっているのに、それでもまだ動けないことが悔しい。
「………!」
優しく優しく、頬を撫でる手。
長友くんの大きな手。
この手が大好きだった。
日に焼けていて、節も太くて。
それなのに、私に優しく触れてくれる。
壊れ物を扱うみたいに、そっと撫でてくれる。
時には、私を惑わせて。
天国に昇るのかと思うほど、私の体を激しくいたぶるけれど。
私、この手が好きだった。
長友くんの大きな手が、この上なく愛しかった。