社内恋愛のススメ
吹き抜けていた風も、今はもう感じることも出来ない。
ほんの少しの冷たさを孕んだ朝の寒さも、もう感じない。
全てを覆う様に、長友くんの体が私を守ってくれる。
離れなくちゃ。
離れなくちゃいけないんだ。
私は、ここにいる資格なんかない。
長友くんの腕の中にいる資格なんて、ないんだ。
私は逃げたんだよ。
本社からも、長友くんからも。
後ろ指を差されることが怖くて、全てから逃げ出した。
左遷されたのは事実だけど、それを受け入れたのは私。
受け入れたことで、私は現実から逃げた。
抜け出そうともがくけれど、長友くんがそれを許さない。
先ほどよりも強く、その腕の中に私を閉じ込めようとする。
長友くんの息が、さっきよりもずっと近くで感じられる。
私の耳元。
私に囁く様に、長友くんが言う。
「追いかけなかったこと、死ぬほど悔やんで………。だから、俺、決めたんだ。」
「決めた………って?」
長友くんは、一体、何を決めたというのだろうか。
私を追いかけなくても、長友くんは何も悪くない。
それだけのことを、私がしたからなのに。
私がいない1年、長友くんは何を決断したのだろう。
「お前を探して、プロポーズの返事を聞くって………ずっと決めてた。」
プロポーズ。
そうだ。
あの日、長友くんは私に言ってくれた。
結婚しようって。
私がいないなんて、考えられないって………そう言ってくれたんだ。
こんな私を引き留めようとして、長友くんは一生を誓う言葉をくれた。
忘れないよ。
忘れたりなんてしてない。
私だって、ずっとそのことを気に病んでいたのだから。
プロポーズの返事をせずに、あの場から立ち去ったこと。
長友くんの前から、消えてしまったこと。
言いたかったよ。
ありがとう。
こんな私に、そんな言葉を言ってくれてありがとう。
ずっと、そう言いたかった。