社内恋愛のススメ
私には、まだ言っていないことがある。
長友くんに伝えなければならないことがある。
私は、まだ全てを伝えていない。
あの日のこと。
私の身に起きた全てを、私は長友くんに伝えていないのだ。
こんな状態のまま、長友くんの胸に飛び込めない。
長友くんの言葉に、甘えたままではいられない。
グッと奥歯を噛んで、堪える。
思い出したくもないことを、嫌でも思い出さなければならないから。
あの悲しい日のことを。
引き裂かれたドレス。
奪い取られた下着。
逃げても逃げても、追いかけてくる影。
上条さんの大きな影。
必死に逃げても、最後には捕まえられてしまう。
囚われてしまう。
どんなに足掻いても、結末は変わらない。
縛られて。
奪われて。
心の中まで、踏みにじられる。
「でもね、私、長友くんじゃない人に抱かれたんだよ?」
好きでもない人に抱かれてしまった。
長友くんではない人に抱かれてしまった。
心は奪われなくても、体だけは違ってた。
汚い。
醜い。
こんな自分は嫌だ。
消せるなら、消したい。
記憶も、体も、何もかも。
「知ってるよ………。」
「嫌でしょ?他の男に抱かれた女なんか、長友くんだって………抱きたくもないでしょ?」
はっきり言ってよ。
言ってくれていいんだよ。
私になんか、気を遣わなくていい。
汚いって。
汚らわしいって。
そう言ってくれていいんだよ。
嫌いになって。
大嫌いになって。
長友くんみたいな、純粋な人に好かれる人間なんかじゃないんだ。
私は。
嫌いと言って。
汚いって言って、私のことを罵ってよ。
しかし、長友くんは、私の望む言葉を口にすることはなかった。