社内恋愛のススメ
取引先のご機嫌を取るのも、仕事のうち。
機嫌が悪いよりはいい方が、仕事だってずっとやりやすいに決まってる。
関係が拗れれば、会社に多大な損害を与えることになる。
僕はずっと、昇進したいと思っていた。
上へ上へと登り詰めて、トップに立ちたいとさえ思っていた。
そこに立つには、並大抵の努力では足りない。
主任という身分が、肩に重くのしかかる。
6年前ならば、きっと違っていた。
結婚という手段は決して好ましくはないが、これも一種の出世。
ある種のステップアップ。
断る理由なんてなかった。
断ろうとも思わなかったはずだ。
この気持ちに気が付く前なら。
この想いを知る前なら。
迷いもしなかった。
結婚なんて、どうでもいい。
誰と結婚したって、きっと同じこと。
だったら、利益になる方がいい。
打算的に、そう考えていたことだろう。
しかし、今は違う。
今は、この気持ちに気が付いてしまった。
この想いを知ってしまった。
何も知らなかった頃には、もう戻れない。
大切な人がいるんだ。
誰よりも大切な人が、今の僕にはいる。
それなのに、僕は彼女のことを選べなかった。
文香のことを選んだつもりもなかったけれど、実和のことも選べなかったのだ。
会社のことを考えてしまった。
自分の恋のことではなく、自分の将来のことを考えてしまった。
1番に考えるべき彼女のことを考えずに、自分のことばかりを考えていたのが間違いだった。
失ってから、初めて分かった。
実和が僕に別れを告げてから、ようやく自分が犯した過ちを実感した。
あの子が大切なのだと、分かっていたのに。
知っていたのに。
実和に嫌われる様な行動を、僕は自ら取っていたのだ。
別れの日。
彼女に告げた言葉。
「無下に断れない。何も考えずに適当に断れば、会社に莫大な損害を与えることになる………。」
それは、ただの言い訳にしか過ぎない。