彼女のすべてを知らないけれど
ミコトは話した。
「我は、人類が知恵をつける以前からこの世界に存在していた。長年、部下など付けずに独断で活動していたのだがな……」
近年、然の家族と関わっているうちに、ミコトは全国の神社にも関心が湧いたのだという。
「霊界で、輪廻転生(りんねてんせい)を待つ幽霊達に声をかけ、全国の神社を繁栄させるべく、私の修行を受けて神に近い存在になるよう諭したのだ。すると、思いの外、多くの志願者が現れてな。
繁栄している神社は皆、我の部下が取り仕切っていると言っていい」
「どうして、そこまでして人間の世界を……? 」
神だったら、もっと違うことをしても良さそうなのに。
「人間のお前には理解できないだろうが、我ほど万能な神になると、自分のことより他人のために力を尽くしたくなる。余裕があるからこそ、他者を救いたくなるのだろうな」
「言ってることは分かる気がするよ。気持ちに余裕がないと、自分のことで精一杯になって周りが見えなくなるし」
俺は、クロムを亡くして落ち込んでいた自分を振り返った。
ミコトは慈悲深い表情で、
「当然だ。人間は不完全な生き物だからな。悲しみや喜びが自分らしさを作る。迷いや決断が人生を彩る。それで良いのだ。
それに、我の場合、然の先祖には恩があるからな。末代まで、彼らを見守りたいと考えているのだ」