彼女のすべてを知らないけれど
ミコトからそんな風に言われるなんて意外だったが、俺は清々しい心持ちでしっかりうなずいた。
「もちろんだよ。然が俺を嫌わない限り、俺は然と友達でいたいと思ってる。
クロムの話も聞いてくれたし、捨て猫のことに関しても、自分のことみたいに考えてた、然は。あ、クロムっていうのは、前に実家で飼ってた猫のことなんだけど」
然の言動に、いつも救われていた。いつか然が困った時は助けてあげられるような存在でいたいと、俺は考えている。
一方、ミコトは、クロムの話が気になったようで、前のめりになると、
「その猫は、お前の飼い猫だったのか?」
「うん。今年に死んじゃったけど……」
「その様子では、まだ、クロムなる猫の件を引きずっているようだな」
俺の気分は、一瞬にして曇った。
「うん……。まだ、忘れられなくて。情けないって思われるかもしれないけど、この辺の捨て猫をかまわないようにしてるのも 、クロムのことがあるからなんだ。クロム に注いだ愛情が嘘だったみたいに思いたくないし、他の猫と関わることで自分が変わってしまうのも、こわい……」
路頭に佇んでいたロシアンブルーを見捨てた。その理由を、俺は語った。
「『たかがペット』じゃない。立派な家族だったんだ、クロムは。だから、これからはもう、猫には深い愛情を持ちたくない。失った時に、悲しくなるだけだから」