彼女のすべてを知らないけれど
俺は言った。
「クロムは、自分の死が近いのを察して家出したんだ。戻ってくることはなかった。どうして最期(さいご)までそばにいてくれなかったのか、今考えても分からない……。
でも、たしかに、クロムは別れの挨拶をしてきたんだ。家を出る前日の夜、俺の布団に潜り込んできて。
もし、今クロムを生き返らせたら、悲しみは癒えるかもしれないけど、クロムと過ごした最期の時間までなかったものになる……。悲しみやつらさも、クロムを好きだからこそ感じてたのに、お守りの力に頼ったら、そういうの全部否定するだけな気がして」
頬には、涙がこぼれていた。耳まで熱い。
「生き返らせたくないって言ったら嘘になるけど……。俺は、今を受け入れたんだ。時間がかかっても、悲しみを乗り越えてみせるよ!」
「そうか……」
気まずそうに俺から目をそらし、ミコトは言った。
「我は、この力ゆえに傲慢(ごうまん)なことを平気で口にしてしまう。
こうして時々、人間に学ぶことがある。
まあ、それはお前の物だ。返すなら、元々それを持っていた然に返せ。自分の作品を突き返されるのは、神とはいえけっこう傷つくのだぞ」
「作品? ……そっか、ごめん。そうだよね。ミコトの力でこんなすごい物ができたんだもんな。
使う予定はないけど、でも、大事にするよ。せっかく然がくれたものだし。ミコトも 、ありがとう」
涙を手の甲で拭い、俺はそっとお守りをしまった。