彼女のすべてを知らないけれど

ダイニングテーブルを濡れ布巾で拭きながら、俺は深呼吸を繰り返した。

不審な行動は厳禁だ! 怪しい顔つきもしちゃいけない!

自分に色々と言い聞かせ、女の子と対面する時を待った。

そんな努力もむなしく、女の子は服も着ずに俺のいるダイニングまでやってきた。

「あの! 服は着てくださいっ!」

俺は、手にした濡れ布巾で押さえつけるように自分の顔を隠し、彼女に言った。まさか、着替えもせずこっちに来るとは思わなかった!

「服?」

女の子はだるそうにつぶやく。

「私にはそんなもの必要ない」

塗れ布巾で視界を遮ったまま、俺はやや強い語気で言い返した。

「必要ないことないですって! こっちが目のやり場に困るから、何か着てくださいっ。ベッドの……枕元に、適当な服置いてありますからっ」

「ああ、そうだった。私は今、人間だったのね」

抑揚のない声でそうつぶやいたかと思えば、彼女は俺の目の前に来て、言った。

「服の着方なんて分からないから、手伝いなさいよ。それくらいしてくれるでしょ?」

妙に強気な頼み方。彼女は、俺の視線など全く気にせず、ベッドルームに引き返す。

俺はなるべく彼女の体を目にしないよう、視線を天井や床にさ迷わせながらベッドルームまでついていった。
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