密と蜜~命と共に滴り堕ちる大人の恋~
 髪を切った事には全く触れてくれなかった。気づいているのか、いないのか、それすらもわからなかった。

 私は美容室で鏡に映る新しい自分を見て『こんにちは』と、ちょっと嬉しい気分になっていたのに。

 浮かれた私を映すその鏡が、亮の背中を見ていて寂しさで割れた。心を突き刺すように。

 亮がお風呂に入る時、

「背中、流してあげるね」

 と、明るく可愛く言ったけど、

「今夜は軽くシャワーだけだから」

 見事なくらい断られた。

 私、なにしてるんだろう、と途方に暮れるほど虚しくなって、亮がお風呂から出てくるまで玄関の外で顔を両手で覆いながら泣いた。悲しすぎて亮に泣いている姿を見られたくなかった。



 お金を払うからしてください、そう言わないともうしてくれないの?





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