Love the love.

 バカみたいに壁の薄いおんぼろアパートの3階に、テルは一人で住んでいる。

 友達で不動産屋へ就職したらしい子が紹介してくれた部屋だと言っていた。

 都心に近いこの街で、狭くて古いとはいえトイレとお風呂付きで月4万の家賃。いいものを紹介してもらったじゃないか、と思った。

 一緒に住んでいたテルが「一人暮らしをする」と言った時、本当は止めたかった。経済的な理由からも、寂しさもあって。

 だけど当時の彼女が言ったのだ。テル君は、親離れをしようとしているのだから、邪魔してはいけないと。

「成長を見守るのが、家族の役割よ」

 そう言って、笑顔で俺を説得した。悔しいけど、確かになあ~と思った。

 だからオッケーを出したのだ。凄く心配だったけど、テルは、案外ちゃんと暮らしている。

 それもまた、若干悔しい俺だ。でもテルにはナイショ。

 チャイムは3・3・7拍子で打つと決めている。鼻歌を歌いながらボタンを連打した。

 しばらくして、がちゃりとドアが開く。その速度は亀もビックリってくらいにのろくて、そのままで夕方が来てしまうのではないかと思った。

「テルー?」

 隙間から覗き込むと、目の前には鈍く光るチェーンが。・・・あ、こいつ、部屋に入れないつもりだな。

 どうやら寝起きらしい乱れまくった頭を更に手でかき回して、俺の甥である広輝は半眼で、ぶっすーとした声を出した。

「・・・・帰れ」

 第一声がそれかよ、まったく、愛想のカケラもないやつだ。


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