花蜜のまにまに
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 幸祐はひかりの事をペットだ猫だと言うけれど、実際動物のようなのは幸祐の方だ。

 今も、マンションの部屋にやってきたひかりをベッドの上ですっぽりと抱きしめて、ひかりのミルクティー色の髪に鼻先を埋めてすんすんと匂いを嗅いでいる。切れ長の目がとろりと細められて、長い睫毛が頬に影を落とした。

「…タバコ臭い」
「そりゃ、飲み屋帰りですから」

 思わず変に改まった言い方になった。幸祐は小さく吹き出して、なにそれ、と笑う。つられてひかりも小さく吹き出す。
 幸祐の笑った顔は子供の様にくしゃっとしているのに、笑う声自体はハスキーで、喉を慣らす様な笑い声だった。

 染めた事が無いという真っ黒な髪は少し襟足が眺め。切れ長の奥二重も、よく通った鼻筋も、全てが『美形』を象っている顔。顔立ち自体はアイドル系統というよりはモデル系統で、大人っぽい雰囲気を持っている。苺一会にいる幸祐の取り巻きの一人が以前、前シーズンにやっていた人気のドラマに出ていた俳優に似ていると言って、そのドラマを二人で見たけれど、確かに似ていた。背がすらりと高くて、コートが良く似合う姿もそれっぽい、と思ったのがひかりの中で印象に残っている。そんな顔立ちなのに、幸祐の笑う顔や姿は、何処か子供っぽいのだ。
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