私たち。

弱み

それからというもの、クラスの子からは麻友に対する陰湿ないじめが始まった。
昨日まで仲良く話していた友達は、手のひらを返したように無視した。
目が合えば逸らし、話しかけても無視をするようになった。
皆、なんだかんだであのグループが恐いのだ。
麻友を対象(ターゲット)としたいじめは始めこそ無視等の間接的なものだったが、日を追う毎に殴る蹴るなどの直接的な攻撃に変わっていった。
いじめが酷くなるに連れて、クラスだけには留まらなくなった。
廊下で顔を見れば、知らない人からも暴行を受けた。
何時しか、学年全体で麻友一人をいじめるようになっていた。
それでも、麻友は学校へ行くのをやめなかった。
しかし、親友を失い、かつての親友に殴られる日々は、確実に麻友の身体を蝕んでいった。
頑張り続けた麻友の精神は、限界に近づいていた。
体にも、至る所に痣や傷ができ、絆創膏が手離せなくなった。
「もぅ、耐えられないよ」
そんな中、初めて麻友は弱音を吐いた。
麻友が愚痴や弱音を唯一吐ける場所。
それはインターネットだった。
ここでなら、匿名で書き込めるのでクラスメイトに見られることもない。
私の、唯一の救い。
麻友はそう、思ったいた。
掲示板にしか自分の存在価値を見出だせない麻友は、自分を惨めだと思った。
人は、他人から必要とされてこそ自分の居場所を確立できる。
自分が必要とされていないと知ったとき、人は自分に絶望し、生きている意味がないとすら感じる。
その絶望の縁に、麻友はいた。
そんな弱りかけていた麻友には、味方と思えるユーザーがいた。
シンと名乗る、同年代のユーザーだ。
麻友はシンを信頼していた。
もう、誰も信じられなくなっていた麻友に、親身になって相談に乗ってくれたシンを麻友は本気で信じていた。
弱っていた麻友には、信じられるのは味方と思わせてくれるシンだけだった。
それが例え、全て偽りだったとしても、だ。
「今度、会って話せない?か。
でも、こんな私でシンさんに嫌われないかな?」
すごく、不安。
でも、会ってみたい。
すごく優しい人だから。
麻友は迷っていた。
会って嫌われないだろうか。
このまま、やり取りを続けられるのか。
数時間にわたり悩んだ末、会うという選択をした。
果たしてこの決断は、正しかったのだろうか?
返事をすると、予定はトントン拍子に決まっていった。
週末の午後。
分かるように写メを送ってほしい、と言われた。
写メ...。
自分の顔に、はっきりいって100%の自信もないが、かといって不細工だとも思っていなかった。
いたって平凡。
だから、よほど期待していない限り失望はしないだろう。
でも、超緊張する。
不細工ではないといっても、これはただの自己評価にすぎない。
いじめられていたときは、ブスとか散々言われたが、あれは本当ではないと思っているが、もし、本当だったら...。
汗ばんだ手が、震えている。
緊張が、尋常じゃない。
マジで半端ない。
パシャッ
ケータイのシャッター音と同時に、スマホの大画面に写し出されたのは、ぎこちない笑顔の私だった。
保存し、少しのボタン操作の後、送信完了の4文字が表示された。
その、たった4文字に、私の心臓はこの上無いほど早く波打っていた。
このまま心臓が止まって死んでしまうのではないか、そんなことを考えるほどだった。
ピロリロリーン
わぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ビックリした...
なんだ。
返信か。
可愛い、じゃん?!
キャー。
良かった。
ひとまず、安心。
あぁ。
でも、会うんだ。
失望させないようにしなきゃ。
そんなことで、私の頭はいっぱいだった。
あっ!!
着ていく服、決めなきゃ。
どうしようかなぁ…。
悩んでいる麻友の横顔は、恋をする少女のようにみえた。
頬を赤く染めて。
こんなに張り切ったの、いつ以来かなぁ?
いじめを受けるようになって初めて、こんなにドキドキした。
こんなにワクワクした。
こんなに...。
シンのお陰。
私も、少しでもシンの力になってあげたい。
私できることなんて、あるかどうかさえ、わからないけど。
ブー。ブー。ブー。
ケータイのアラームの音で、ベッドに眠る私の目はあいた。
なにか行事がある時に早く起きちゃう、何て言うのは嘘だ。
緊張で前日眠れないっていうのは本当だけどね。
一回に降りて、朝食をとる。
ベーコンに目玉焼き。
そして、トースト。
歯を磨いて、昨晩迷いにまよって決めたワンピを見にまとう。
紙をセットして、化粧を施していく。
鏡を確認して...
変なところはないよね。
うーん。
早めに出たから三十分も早く集合場所に着いてしまった。
近くのベンチに座る。
来るかなぁ?
すっぽかされたら、どうしよう?
そんなことを考えていたら、かなり時間が経っていたらしい。
「麻友ちゃん?」
呼ばれた声に振り替えると、同い年か少し年上に見える、男の人が立ってベンチに座った私を見下ろしていた。
「あっ、あの。
シンさん?」
思わず立ち上がった私に、シンさんらしき人が笑った。
「うん」
かっこいい。
微妙だったらどうしよう、という不安とは裏腹に、誰もが認める美少年だった。
ただ、色素の抜けた金色の髪にいくつものピアス、シルバーのネックレスからは、青少年という感じはしなかった。
ち...チャラい。
とは、まさにこの人のような人のことだよね?
変に納得する。
「どうかした?」
「あ...いえ。
なんでも」
あ、
ボーッとしてたの、バレた。
隠したつもりなんだけど、きっとバレてるなぁ…。
「じゃあ、行こーよ」
そう言って私の手を引っ張るシンに、戸惑ってしまった。
「な...
何処へ?」
「ライブのチケ、とったから。
バンドとか、嫌いだった?」
そう言うと、ポケットから二枚のチケットを取り出した。
「あ...
行ったことないですけど、行ってみたいです!!」
「初かぁ。
楽しんでもらえると思うよ。」
本当にライブとかは初めてだった。
でも、ずっと行ってみたかった。
「楽しみです」
「あっ、それと、タメ語でいいよ」
「あ、う...うん」
そう言うと、満足そうな笑顔を浮かべると手を握ってきた。
恋人繋ぎ。
そう思うと、顔がにやける。
でも、汗ばんだらどうしよう、という不安も同時にあった。
歩いて数分のところに、ライブハウスはあった。
外からではわからなかったが、中に入ると大音量でBGMが流れていた。
すごい...。
「どぅ?」
「え?」
聞こえなかったので聞き返すと、次は大きな声で聞いてきた。
「初のライブハウス入り、どぅ?」
「スゴいね」
大声で返さないと、本当に聞こえないくらいだ。
言葉がでない、とでもいうのか。
「あ、次だよ」
シンがそう言うと、シンと同じような髪色をたてている人達が出てきた。
それからは、回りのお客さんも盛り上がっていて、本当にすごい光景だった。
「シン!
お久~」
「おー、瞬
久しぶりだな」
「彼女かよ、可愛いーじゃん」
「だろ。
って、彼女じゃねーよ」
「また、アレ...か?」
「あぁ。
まぁな」
瞬と呼ばれた男は、黒髪だったが腰パンで少しチャラかった。
駿先輩に少し、似てる?
学校での事を思い出して、胸が苦しくなった。
辛いから考えないようにしたら、瞬と呼ばれた男はシンに負けないくらい、かっこよかった。
でも、
「アレって?」
「あぁ...
なんでもない」
えっ?
でも、また、アレって。
まぁ、いい...か。
ちょっとだけ、気になるけど。
それから何時間かして、ライブも終盤になった。
「終わっちゃった。
楽しかったなぁ…」
「楽しかった?
なら、良かった」
そう言いながらライブハウスの外へ出た。
また、手を繋いでた。
やっぱ、男の人と手を繋ぐのって慣れないなぁ...。
「じゃあ、行こっか?」
「え?」
「ここまで来たら、わかるでしょ?
ネットの異性と会ったんだよ?」
そう言うと、強引に私の手を引いた。
え?
ちょっ。
待って。
「痛っ」
そんな私を無視して、シンはどんどん歩いていく。
そのまま、派手な建物まで来てしまった。
“HOTEL♡Love”
「嫌ぁっっ」
中に入ろうとするので、力を振り絞って最後の抵抗をした。
しかし、男のちからに勝てるわけもなく、抵抗はあまり意味を持たなかった。
そのまま部屋に行くと、シンは後ろ手にロックをかけた。
もぅ、どうしようもない。
諦めるしか...。
ベッドに押し倒されたとき、シミのある天井が見えた。
こんな形で、初めてを奪われるなんてと思うと、涙が出そうだった。
そのまま、シンは私のワンピを引き裂いた。
ブラのホックを外し、床に落とす。
私の胸が露になった。
急いで胸を腕で隠そうとしたときだった。
ドアがガチャリと開いた。
「瞬っ、さん?!」
それは、さっきライブハウスでシンと話していた瞬という男だった。
「瞬?!」
瞬という男はそのまま部屋に入ってきて、シンの胸ぐらを掴んだ。
そのまま殴り倒した。
「キャアアっっ」
思わず叫び、手で口を覆った。
シンの唇の端に赤い血が滲んでいた。
「っざけんなよ!!」
シンはそう叫び、部屋を出ていった。
「ねぇ」
瞬が呟いた。
そのままベッドに近づいてきた。
「来ないで」
さっき破られたワンピと外された下着が、虚しく床に落ちていた。
私は後ろを向いていたが、肌には何も着けていない。
全裸で、初対面の男の前にいる。
「見ないで!!
早く、出ていってよ」
もぅ、泣きたかった。
殆ど涙声だった。
涙が溢れてきた。
その時、肩に何かがかかった。
見ると、さっきまで瞬が着ていたジャケットだった。
ドアの閉まる音がして、瞬の気配も背後から消えた。
私は、思いっきり泣いた。
怖、かっ...た。
何分か、何十分か経った後、服を着て部屋を出た。
ワンピは破られたので、瞬のジャケットを着て出た。
すると、ドアの脇の壁に寄りかかっている人がいた。
「瞬...さん?」
そこには、さっきジャケットをかけてくれた瞬がいた。
「それ、やる」
瞬はジャケットを指差していった。
「あ...でも」
「でもって言ったって、その格好じゃ町街歩けねぇだろうが」
「すいません」
そう言って頭を下げると、
「あんた、シたことないの?」
「なっ、ないです!!」
顔がカァーっと熱くなったのが自分でもわかる。
「それと、麻友です」
「知ってる」
「えっ?」
「シンから聞いてた。
俺等、いつもやってるから
こーゆうの」
「...」
何も言えなかった。
「でも、あんたみたいなのは初めてだ」
「え?」
私、みたいなの?
「処女」
「あ...」
「あんまいねぇから。」
「...」
「送ってく」
「いいです!!」
「疑ってんの?
俺のこと」
それも、少しはある。
いくら助けてくれたっていっても。
だけど、それより、怖い。
「...」
「車だし。
外にあるから」
「あ...」
「乗っていくよね」
「...」
「ね?」
「は...い...」
その表情は、有無を言わせない感じの問いかけだった。
もはや、質問じゃない。
結局、車に乗り送ってもらっている私。
思い描いていたのと違ってすごく...高そう。
それを、運転している。
18才越えていいのだろうか?
免許は?
法的に問題あったりしそう。
「あの...」
「ねぇ」
「はい?」
「どこ?」
え?え?
家?
あ、そっか。
送ってもらうのに、まだいってなかった。
「あの、えっと...」
そこからは私がナビをした。
ここで降ろしてっていったところで無理そうな雰囲気だったし。
降りようと思ったらそれより前にドアが開いた。
降りるのはやっっ。
やっぱ、こーゆーの慣れてんのかなぁ…。
ちょっとだけ、複雑。
てか、なんで好きでもない男にこんなこと思ってんの?!
「アド、知ってるから」
「えっっ?」
「じゃーな。」
私が唖然としていると、それをわかってか瞬は付け足した。
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