ボレロ - 第二楽章 -


「両親に紹介するよ」


「でも、あまりにも突然じゃないかしら……」


「元旦の席で、両親に意思表示ができなかったからね」


「タイミングが合わなかったのは仕方がないわ。

でも、5日の会でお目にかかるというのは……」



そんなに急がなくてもと、珠貴は気が進まない様子だが、私としてはこの機会を

逃したくない。

賀詞交歓会であり、大勢が顔をそろえる会であるから、私たちが一緒にいても

誰も気に留めないだろう。

絶好の機会ではないか。



「顔合わせだと思ってくれたらいい。

いつか場をあらためて正式に紹介するよ。立ち話ですむことじゃないからね」


「わかりました。でも、どんなお話をすればいいの? 

ご挨拶だけでは間が持たないわ」


「事件を引き合いに出せばいいじゃないか。

潤一郎や紫子に世話になったと話をつなげばいい。

実際、君の救出に関わったんだ。何も遠慮はいらないよ」


「そうね、それなら私も気軽にお話ができそう。

でも、やっぱり緊張するわね。 

お母さまには何度かお会いしているけれど、お父さまにお会いするのは

初めてよ」


「親父は温厚な性格だよ。潤一郎が歳をとったような、そんな感じかな」



穏やかな方なのでしょうねと言いながら、それでもまだ不安そうな顔を見せ

たが、いつかはお会いしなくではならないのだからと心を決めてくれた。



「そうだ、忘れるところだった」



引き出しから小箱を取り出し珠貴に差し出すと、ヒイラギをあしらったリボン

から、渡しそびれていたプレゼントだとわかったようで、嬉しそうな顔を隠さず

すぐに包みを開いてくれた。

綺麗ね……リングを手のひらに乗せ、いろんな角度から眺めていたが、まだ気

がつかないようだ。

珠貴なら、すぐに気がついてくれると思っていたのだが……



「文字をいれてもらった。その、なんというか、一種の虫除けかな」



リングの内側を覗き込んだ珠貴は、小さく驚きの声をあげた。

購入の際プレゼントだと告げると、贈る方のお名前を入れますかと聞かれ、

イニシャルを刻んでもらった。

あなたのイニシャルが入っているのね……つぶやきながら、今にも彼女の目尻

から雫が落ちそうで、それに気がつかぬ振りで無造作にリングを取り上げ、

珠貴の指にはめた。



「ありがとうございます。大事にするわ」


「うん……遅くなったけど」



抱きつかれた首に温かな息がかかり、色を帯びた声がもう一度礼を伝えた。

しっかりとまわされた腕を引き離すまでに、それからたっぷりと数分を要した

のだった。




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