ボレロ - 第二楽章 -
活気に溢れた会場には、事業の新規参入者から老舗や大手の企業までさまざ
まな顔が見える。
規模こそ異なるが、ここに集まる人々に共通しているのは、熱を持った人々で
あるという点だった。
さりげなく引き合わせるつもりでいるが、珠貴の緊張が移ったのか、父を待つ
間に私の心拍数も跳ね上がっていた。
「社長に挨拶をしたいと、待っている人がいます……SUDOの……」 と、
話の合間を見計らって父に耳打ちする声が、わずかに上ずっている。
須藤の名を出すと父は意外なほど反応し、すぐに珠貴が待つ一角へと足を向
けた。
「はじめまして、須藤珠貴と申します。このたびは……」
「大変な思いをなさったそうですね。息子たちから聞きました。
さぞ怖い思いをされたことでしょう」
「お気遣いありがとうございます。おかげさまでこうして無事にしております。
みなさまには大変お世話に……」
珠貴の口上が終わらぬうちに父は話しかけ、事件後の彼女を労わる言葉をか
けた。
緊張して足が震えてるのよ、などと言っていた口はよどみなく礼を述べ、珠貴
の振る舞いは堂々としたものだった。
事件に関した礼だけでなく、父が切り出した事業の話題にも深い関心があると
いった様子で対応し、意見を求められると臆することなく答える。
腹をくくった女性の強さは半端ではないと、このとき思い知らされた。
「……についておまえはどう思う。須藤室長の意見に私は賛成だが」
「えっ? えぇ、そうですね。もちろん、個々の企業努力は必要でしょう。
業界全体の意識の……」
不意に話題を振られたじろいだのは私のほうで、珠貴はにこやかに立ち、私たち
の話に耳を傾けながら求められると意見を挟んでくる。
時間にして10分足らずだったろうか、鮮やかな珠貴の立ち居振る舞いに感心
するばかりで、それでは失礼致しますと延べ、丁寧な礼ののち立ち去る彼女の
後姿を、呆然と見送る羽目になっていた。
「話には聞いていたが、たいしたものだね」
「誰に? 何か聞いたんですか」
「潤一郎だよ。聡明な女性だとは聞いていたが、
いやぁ、それにしても……うーん、なるほどねぇ」
腕を組み思案げな顔の父は、充分に曽祖父の姿に似ている。
じいさんの亡霊の真似ですかと、ようやく冗談が出るほど落ち着いた私は、
珠貴の印象を聞きだそうと父に言葉を投げかけた。
「ずいぶん話が弾んでましたね。社長から見た彼女はどんな人でしたか」
「おまえの迷いを、何とかしてやりたいと思うほど気に入ったよ」
「はっ?」
「そういうことだ」
会場の喧騒は耳から消え、ざわざわと血が騒ぎだした。
私が悩み迷う理由を父が理解しているというのか。
父はどこまで知っているのだろうか。
潤一郎が言ったのか、それとも紫子か、まさか静夏……
いや、それはないだろう。
それとも単なる言葉のあやなのか……
父の言葉の意味を探るが、今は冷静に考えられる状態ではないようだ。
自分自身を落ち着かせるために、ゆっくりと深呼吸をして息を整えた。