ボレロ - 第二楽章 -


今日の彼女はいたって歳相応で、静夏を相手に屈託のないおしゃべりに興じて

いる。

女というのは共通の話題を見つけると、どこまでも話が尽きないようだ。

それまで八木沢葵の訪問を喜ぶ顔ではない静夏だったが、彼女のバッグにつけ

られたチャームに気がつくと、不機嫌そうな顔はすぐにしまわれた。



「そのチャーム、私も持ってるわ」


「一目ぼれして買っちゃったのよ」


「私も! 見た瞬間気に入って、迷わず買ったの」



洗練されたデザインで人気のあるブランドのもので、大げさなブランド品を身

につけるのは好まないが、さりげないお洒落は大事だと互いの意見が一致した

ことから、価値観について話が盛り上がっている。

顔を出して欲しいとお袋に頼まれやってきたが、いまのところ私の出番はなく、

食後の紅茶をすすりながら二人の会話を聞くともなしに聞いていた。



「ふたりとも楽しそうね。良かった……

あの子、葵ちゃんを敬遠してるような素振りを見せていたから心配してたのよ。

私の取り越し苦労だったみたいね。

葵ちゃんなら申し分ありませんもの、

このままウチに馴染んでくださるといいけれど……

それで、宗さんはどうなの?」


「そんなの知らないよ」



突然の問いかけにビクッと驚き、手にしていたティーカップが揺れ水滴がひざに

落ちた。

照れなくてもいいでしょう、と何を勘違いしたのか、お袋は嬉しそうな顔をして

いる。



「あなたが、正月のお席で葵ちゃんのお話をしたから、

こうなったんじゃありませんか。

八木沢さんにお話を伺おうと思っていたら、

思いがけずパーティーでお会いして、これがご縁でなくてなんです。

トントン拍子に進むって、こういうことですよ」


「俺には偶然にしか思えないけどね」


「偶然は必然なんです」


「あのね、そう決め付けられたら世の中全部が必然でしょう。

むちゃくちゃな論理だな」


「そうかしら……」



お袋は涼しい顔で、こっちの意見なんてまったく聞いてくれない。

だいたい、八木沢家は俺を必要としていないんだよと、よほど口に出そうかと

思ったが、あえてこの時点で言うことでもないかと、出かかった言葉を飲み込

んだ。



「静夏ちゃん、デザートの準備を手伝ってちょうだい。 

宗さん、葵ちゃんをお庭に案内して差し上げてはどうかしら。

こちらの準備ができたらお呼びしますから、それまで、どうぞごゆっくり」



どうかしら……といいつつ、それは命令でしかなく、早く二人で話をしなさい

と急き立てられたようなものだ。

仕方なく立ち上がり、外は寒いからコートを着たほうがいいよと彼女に声を

かけ、庭へ続くバルコニーへ誘った。

部屋を出る間際、すれ違った静夏が私の袖を引き 「わかってるでしょうね」 

と脅迫めいた言葉をよこしたため、わかってるよ、と返事をする代わりに、

妹の頭を乱暴に叩いて出てきた。




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