ボレロ - 第二楽章 -


「まさか、八木沢先生、本当にウチの親に話をしたっていうんじゃ」


「記者会見のあとまもなくでした。近衛のおじさまにお話をしたようです」


「俺、聞いてないよ」


「そうでしたか……では、おじさまの一存でお返事をくださったんですね」


「親父がどんな返事をしたのか、聞いてもいいかな」



一瞬考える素振りをして、ためらっていたが話しにくそうに口を開けた。



「はい……息子は過去に婚約を解消している、辛い思いをさせてしまったからと

前置きされて、宗一郎が自分で選んだ相手をと考えていますと、おっしゃったそうです。

父も病気を知る前でしたから、残念ですがと、お話はそこまでになったようですが」 



初めて聞く話だった。

父がそんなことを考えていたとは……

私に辛い思いをさせたと言ったのであれば、父も婚約解消の理由を知っている

と言うことになる。

今まで何も言わずに見守ってくれていたのか。

父の思いを知りこみ上げるものがあった。




「聞いてよかった。ありがとう」


「いいえ、もしかしたらご迷惑をおかけしたかも……」


「そんなことないよ」


「もうひとつお話しがあるんです。すみません」


「先に謝るの? まだなにも聞いてないのに」



すっかりうつむいてしまった顔を元気付けたくて、明るい声をだして励まして

いたが、次の彼女の告白に息が止まりそうになった。



「須藤珠貴さんのこと、おじさまはご存知なかったんですね。

私、何も知らなくて」


「どうして、葵ちゃんが知ってるの……」



振り絞って出した声は、自分でも驚くほど震えていた。



「クリスマスの夜、シャンタンでお二人がご一緒のところをお見かけしたんです。 

私は父と一緒でした。羽田さんにお聞きしたら、須藤さんのお嬢さんだと教えてくださったので。

あの……おじさまもご存知だとばかり思い込んで……

新年会のとき、宗さんのお相手の方、ステキな方ですねと、須藤さんのことをお伝えしてしまって……」



話を聞いた父の顔が怪訝そうだったので、知らなかったのだと気がついたの

だと、彼女はまたも謝った。

いつかはバレることだからね、気にしなくていいよといいながら、一昨日の父の

態度に納得した。

なるほど、だから父は珠貴の名を聞いて大きく反応したのか。

こっちにとっては好都合だった、ありがとうと言おうとして、先に言葉を告げ

られた。



「私……須藤珠貴さんがどんな方か知りたくて調べました。

妹さんと歳が離れていて、お父さまの跡を継がれる立場で……

私の環境とよく似ていますね……

私ではだめですか……宗さんの心に、私が入る場所はありませんか」



思いがけない告白に息を飲み込んだ。

遠くで私たちを呼ぶ静夏の声がしたが、応じることができないほどうろたえて

いた。 



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