後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 騎士たちの一人がアイラに向かって馬を差し出した。

「ライナス様! フェラン様! 皇女様をよろしくお願いいたします!」

 今の自分はエリーシャ――だから、騎士たちを置いていくのは当然のこと。そう言い聞かせて、差し出された馬に飛び乗る。

「エリーシャ様! 東へ!」

 フェランが声を上げた。

「わかったわ!」

 東に向かって馬を走らせる。夜の闇の中を走るのは、馬にまかせるしかなかった。ただ、鞍にしがみついて、落とされないようにするので精一杯。

 闇の中、矢が後ろから飛んでくる。アイラの乗っていた馬の尻に矢が突き立った。痛みに馬が棒立ちになる。

 その勢いで、アイラは馬から振り落とされた。したたかに背中を打ちつけて、息がつまる。

 フェランが飛び降りて、アイラに手を差し伸べた。その二人の間を、また矢が通り過ぎる。
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