さよならの魔法
助けて欲しいと願っても、誰も助けてはくれない。
なら、耐えるしかない。
歯を食い縛って、我慢するしかない。
そう思っていたのに。
物珍しさからか。
声をかけたのが、私と同じく目立たない存在であろう橋野さんだからなのか。
教室内の視線が集中して、いつも以上の居心地の悪さを感じる。
私と同じ居心地の悪さを感じているはずなのに、それでも橋野さんは逃げなかった。
キョロキョロと周りを見回す素振りを見せるけれど、立ち去ろうとはしなかった。
怯えた目。
その目は儚さもあり、弱さも感じられる。
しかし、橋野さんの言葉は、態度とは違うものだった。
「そういうの………、良くないと思う。」
丁寧な言葉の裏に、橋野さんの意思を感じる。
橋野さんの言葉は、磯崎さんを咎めるもの。
弱い存在を嘲笑うことしか楽しみを見出だせない、磯崎さんを叱るもの。
今まで、誰もそんなことを言った人はいなかった。
クラスの中でも中心にいる磯崎さんに、苦言を呈する人なんていない。
どこまでも真ん中で、誰よりも上に立ちたがる彼女に意見する人なんているはずもなかった。
大人しい橋野さん。
目立たない橋野さん。
橋野さんが初めてだ。
磯崎さんに楯突くのも。
磯崎さんに苦言を呈するのも。
橋野さんの言葉は、今までのイメージを壊すのに十分で。
むしろ、十分過ぎて。
橋野さんの言葉に、案の定、不機嫌になる磯崎さん。
眉を吊り上げた磯崎さんが、低い声でこう言った。
「橋野さん、何か用なの!?私達、天宮さんと話をしているだけなんだけど。」
きつい言い回し。
だけど、そう言われてしまえば、それまでだ。
磯崎さんがやっていること。
それは、確かに話をしているだけ。
まだ、危害を加えられている訳ではない。