さよならの魔法



(渡したいけど、………渡せない。)


手に取る様に分かる。


増渕さんの強い意思が。

増渕さんの心が。



誰だって、付き合っている人を独占したいと思うだろう。

自分だけのものにしたいと、そう願うだろう。


他の女の子なんか、近付けたくない。

自分と好きな人との間を邪魔する可能性を、出来る限り排除したいと思うはず。


増渕さんも、そう思っているのだ。



間違いなのか。


彼女がいる人に、チョコレートを渡す。

自分ではない人を見ているのに、想いを告げる。


それこそが、自分勝手な行動なのだろうか。



(増渕さんが、自分勝手なんじゃない。)


きっと、私の方が自分勝手なんだ。

私が間違ってるんだ。


そう思っているうちに時間だけが流れていき、気が付けば放課後になってしまっていた。









「それでは、今日のホームルームは以上で終わりです。みんな、また明日ね。」


担任の佐藤先生がそう言い、教室から出ていく。


佐藤先生は、2年生に進級してからクラスを受け持ってもらっている、中年の女性の先生だ。

去年は、担任は別の先生だった。


トレードマークの淡いピンクのカーディガンの背中を見送りながら、私は密かに溜め息をついた。



「はぁ………。」


どうしよう。

ほんと、どうしよう。


渡したい渡したいと思っているうちに、あっという間に放課後になってしまった。



渡すタイミング。

話しかけるタイミング。


きっかけが、上手く作れない。



私と紺野くんは、クラスメイトということしか共通点も接点もない。

共通の友達もいない。

委員会や部活も、同じじゃない。


ほとんど話したことのない私なんかがいきなり話しかけたら、紺野くんはどう思うだろう。



どうして?

何で?


不思議に思うに違いない。

面倒だと、そう感じるかもしれない。



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