さよならの魔法
私は弱虫だ。
意気地なしだ。
行動を起こす前から、腰が引けてしまっている。
(私、決めたのに………。)
今日で、最後にするって。
この片想いを終わらせるって、自分で決めた。
振られても、叶わなくても、今日が最後なんだ。
自分の中だけで、フェードアウトさせられない。
自然消滅させられるほど、淡い気持ちだった訳じゃない。
区切りが必要なんだ。
この長い片想いを終わらせる、区切りが。
1歩。
先へ進む1歩が、なかなか踏み出せない。
固まる私の耳に入るのは、大好きなあの人の声。
紺野くんの声。
私の胸を、今でもときめかせる声だ。
「紺野ー、部活行くぞー。」
「おー、分かった。今、行くから!」
同じ弓道部に所属するクラスメイトに声をかけられ、振り向く紺野くん。
学ラン姿の紺野くんの手には、通学用に使っているバッグと大きめのバッグ。
大きめのバッグには、練習用の弓道衣が入っているのだろう。
昔、1度だけ、弓道衣を身に纏った紺野くんを見かけたことがある。
白筒袖に、紺色の袴。
上着と同じく、真っ白な足袋。
目を見張るほど、美しかった。
凛としていて、いつもの彼はそこにはいなかった。
きっと、もう見ることもないだろう。
ただのクラスメイトの私には。
彼女である増渕さんはいつでも見られるかもしれないけど、私はそういう訳にもいかない。
偶然を装わなければ、見に行くことも出来ない。
「茜、ちょっと来てー!」
「優美?なーに?」
紺野くんの隣を陣取っていた増渕さんが、同じクラスの林田さんに呼ばれる。
隙が出来る。
友達に呼ばれた増渕さんは、名残惜しそうにしながらも、紺野くんの傍を離れていく。
「あ………。」
今だ。
今しかない。
私がずっと狙っていた、タイミング。
紺野くんを呼び出すことの出来る、その時。
それは、今だ。