さよならの魔法
俺にこんなにしょっちゅう近寄る人間なんて、そう多くはない。
矢田か。
茜か。
その2人のどちらかだ。
今日に限って言えば、それは後者。
俺の彼女である、茜の方。
普段と同じ様に。
いや、普段よりも頻繁に、茜は俺の元に寄ってきていた。
「ねえ、ユウキ。さっきの小テスト、どうだつた?」
「ああ、あれ?」
「私、すごい最悪だったんだけど!」
何かと思って耳を傾けてみれば、話の内容は些細なことばかり。
どんなことでも、話をする。
伝え合う。
恋人同士なら当たり前のことだ。
普通ならば。
それすらしたくないと思うのは、俺の気持ちが完全に醒めているせいか。
それとも、俺と茜が合わないせいか。
一見仲が良さそうに見えて、根本的な考えが違うせいなのだろうか。
「おかしいなぁ………。ちゃんと、予習はしてるつもりなんだけど。」
ふと映る、茜の目。
その目に映っているのは、もちろん俺で。
だけど、どうしてだろう。
今日の茜は、いつもとは違って見える。
必死に、世間話をしている様に見えてしまう。
(どうして、そんなに必死になるんだ………?)
必死になる理由。
それが、茜にあるのか。
俺は逃げない。
逃げられない。
話をする時間だって、たくさんある。
それなのに、茜は焦ってる。
必死になって、俺に話を振る。
不自然さを感じなから、思いを巡らせる。
(そうか………、そういうことか。)
思い当たる節は、1つ。
たった1つだけ。
それは、今日の日付。
今日は、2月14日。
年に1度しかない、愛を伝える日。
バレンタインデーだ。
茜がおかしいのは、きっとそのせいに違いない。
監視されているのだ。
俺は、彼女に見張られている。
俺に、誰かが近付かない様に。
チョコレートを渡すかもしれない誰かに、近付きにくいと感じさせる為だけに。