さよならの魔法
俺に、チョコレートを受け取って欲しくないのだ。
自分以外の人間からのチョコレートを、受け取らせたくないのだ。
だから、茜は焦ってる。
必死になってまで、俺の近くにいる。
俺は、茜の嫉妬によって縛られている。
見えない鎖。
けれど頑丈な鎖で縛り付ける為に、茜は隣にいるんだ。
きっと。
(監視する必要なんてないのに………。)
茜は、俺を買い被り過ぎてる。
俺は、そんなに人気がある方じゃない。
自分で言うのも悲しくなるけど、どちらかと言えばモテない分類に分けられる方の人間だ。
人懐っこいことだけが取り柄。
格好いいと言われる顔は持っていない。
目だって、大きくない。
顔立ちだって、普通に日本人らしい顔だ。
特徴らしい特徴すらないことが泣けてくる。
世に云う、イケメンの類いの人間ではないのだ。
従って、チョコレートなんてもらったことはない。
告白をしてきたのも、茜が初めてだ。
妬くことなんかないんだ。
それでも、好きだからなのだろうか。
そういう目で、俺を見るのは。
俺のことを見張るのは。
初めて受ける束縛は、とてもじゃないけど、気持ちのいいものではなかった。
「ユウキ、ねえ、聞いてる?」
そう尋ねる茜に、虚ろな目で返す。
「………聞いてるよ。」
縛り付けたいだけだ。
俺という存在を、茜は縛りたいだけ。
そこまでして、自分だけのものにしたいと思っている。
それほど、俺のことを好いていてくれる。
俺は、そこまで茜のことを想ったことはない。
茜と同じ重さの気持ちで、茜を見たことはない。
それだけは言える。
好きという気持ちはあった。
これから、もっと昇華させていきたいと思っていた。
俺と茜は、ちぐはぐだ。
吊り合うことのない、天秤だ。
彼女がいる、初めてのバレンタインデー。
普通ならば楽しみであるはずのその日は、俺の心を沈ませたまま、ただただ過ぎていく。