さよならの魔法
その時を待ち続けて。
待ち続けて。
渡されることのないまま、迎えてしまった放課後。
事件が起こる。
しかし、その事件には茜は関係していない。
予期すら出来なかった、悲しい事件だった。
(あー、やっと終わった………!)
背伸びをして、肩を大きく円の様に動かす。
机にかじり付いていた体が、悲鳴を上げる。
ピーンと、気持ちいいくらいに体が伸びていく。
いつも以上に疲れる、そんな1日だった。
今日という日は。
いつも以上にと表現したのは、きちんとその理由が分かっているからだ。
そりゃ、ほぼ丸1日勉強をしていれば、体だって疲れる。
頭も使うから、精神的にだって疲労を感じるだろう。
しかし、俺は中学生。
10代で、まだまだ若さがある。
多少の疲れなんて、気にならない。
それをカバーするだけの体力もある。
いつもと同じ時間、いつも通りに学校で過ごしているだけなのに疲れてしまう理由。
それは、茜だ。
(すっげー疲れた………。)
何ともおじさん臭い台詞を、心の中だけで呟いて。
それと同時に、重苦しいほどの溜め息をつく。
俺を精神的に追い詰める、茜の存在。
茜を視界にすら入れることがしんどくて、目を閉じた。
今日1日。
茜はいつも以上に、俺にくっ付いてきた。
不穏な空気が、どこかへ飛んでしまったかの様に。
最近流れていた雰囲気が、嘘の様にさえ感じるくらいに。
彼女。
付き合っているからこそのその行動が、いつもよりもより目立って見えたのは言うまでもない。
縛り付けられている。
俺は茜に、見えない鎖で縛られて。
見られて。
監視されている。
否が応でもそう感じてしまって、窮屈で窮屈で仕方ない。
茜のことを愛しているならば、その束縛さえも嬉しく思えるのかもしれない。
茜のことを好きならば、自分もそうしたいと思うのかもしれない。