さよならの魔法
茜を探してみれば、教室のど真ん中で仲のいい友達数人と話をしている様だった。
話している友達の輪の中には、林田の姿が見える。
俺の悪友の想い人だ。
「えー、ほんとに?」
「ほんとだって!」
「やだー、茜、怖いから!!」
楽しげに笑う茜と林田。
2人の顔に、艶やかな笑顔の花が咲く。
離れてみれば、憂鬱さえ感じない。
その存在を、重いとも思わない。
でも、一緒にいるとダメなのだ。
少なくとも、俺は。
今だって、可愛いとは思っている。
つぶらな瞳。
愛くるしい仕草。
人懐っこい笑顔。
他人から見たら、自慢の彼女。
明るくて。
気が利いて。
おまけに可愛い。
文句の付けようがない彼女。
自慢の彼女。
だけど、俺は。
俺は。
そんな自慢の彼女と別れたい。
離れたいと。
距離を置きたいって、そう思ってる。
(チョコレートを渡された時に、別れようって言おうと思ってたんだけどな………。)
渡されることは決定事項だと思っていたのに、茜はそんな素振りさえ見せない。
渡されないのなら、言うに言えない。
別れを告げたくても、言えないのだ。
友達と話しているのを中断させてまで、言うつもりもない。
今はまだ、その時ではないのかもしれない。
そのタイミングではないのかもしれない。
タイミングって、重要だ。
タイミングを間違えれば、上手くいくものも上手くいかなくなることもある。
簡単な様に見えて、タイミングを図ることは難しい。
いつになるか。
いつ、言うのか。
それが変わるだけで、別れを告げることだけは確かなのだが。
(よーし、とりあえず………今日のところは部活に行くか。)
部活の時間も迫ってる。
比較的自由な部活だから、そこまで叱られることもないけれど。
どうせなら、遅刻しないで参加したい。
弓を引けば、憂鬱な気分も晴れるだろう。