さよならの魔法
「………。」
無言のまま、磯崎が手にしていたカードを取り上げる。
難しく考えることなんて、何もなかった。
最初から、こうしていれば良かったんだ。
自分の思い通りに動けなくなったのは、いつからだったのだろう。
周りのことばかりを気にして、動くことを止めてしまったのはいつからだった?
確かに、考えることも必要だ。
周りを見ることも必要だ。
しかし、時には、それを打ち破らなければならない。
そればかりに囚われてはいけない。
磯崎が一瞬だけビクンと反応して、怯えた表情を見せる。
でも、そんな弱々しい表情を見せたのも、わずかな間だけ。
すぐに、いつもの強気な表情が舞い戻った。
「紺野くん、何?」
不機嫌そうに眉をひそめて、俺にそう問う。
周りを見るべきなのは、コイツの方。
周りの感情まで考えなければならないのは、この女の方だ。
自分の感情ばかりを優先させる磯崎に、俺の苛立ちが爆発した。
「何が最高だって?何が面白い?」
最高なことなんて、何もなかった。
面白いことなんて、何1つなかった。
存在していのは、歪んだ感情だけ。
悲壮感と支配欲。
自分勝手な思いだけじゃないか。
「お前、自分がやってること、分かってんの?」
ずっと言いたかった。
ずっとずっと、言いたかったよ。
お前に。
こんなバカげたことしかしない、クラスメイトに。
もっと早く、言えば良かった。
天宮の前で、ちゃんと言ってあげたかった。
そうすれば。
それが出来ていたならば、彼女の心を少しでも救えていたのだろうか。
彼女の傷を、少しでも浅くしてあげられていたのだろうか。
「やだー、何、怒ってるのー!?」
クスクス笑いながら、磯崎がふざけてそう返す。
これが、怒らずにいられるか。
平常心でいられるものか。