さよならの魔法



磯崎の言葉。

磯崎の態度。

その全てが、今の俺にとっては起爆剤でしかない。


普段は絶対に使わない、乱暴な言葉。

荒々しい言葉遣いで、磯崎に思いの丈をそのままぶつけた。



「天宮にやってたこと、お前は自分が他人にやられたら………どう思う?どう感じる?」


なあ、答えろよ。

言ってみろよ。



「お前なら、キレるよな?キレて、やり返すだろ。それだけのこと、お前は天宮にやってんだよ!」


やり返せるなら、まだいい。

やり返すことで、気持ちだって晴れるだろう。


でもな、そう出来ない子だっている。

そういう方法を選ばない子だっているんだ。



みんながみんな、強い訳じゃない。

外へ感情をぶつけられないで、溜め込むしかない子だっているのだ。


そう。

天宮の様に。



自分勝手な暇潰しで、傷付く人間がいる。

影で泣いている存在がいるのだと、気付いて欲しい。


今はここにいない天宮の代わりに、教えてやりたい。



「悔しいなら、やり返せばいいじゃない!」

「みんな、お前と同じ考えじゃねーんだよ。」

「やり返せないのは、弱いからでしょ?そんなの………。」

「磯崎、お前、最低だよ。お前のやってること、最低だよ。………いいかげん、気付けよ。」



気付いてくれ。

お願いだから、分かってくれ。


最後は低い声で、そう諭した。



どうか、磯崎の心に届きます様に。

少しでも磯崎の心に、俺の言葉が響く様にと。


そうすれば、天宮も報われる。

天宮がこれから、磯崎に傷付けられることも減るだろう。



あの涙も。

あの嘆きも。


きっと報われる。

報われるはずだ。


そう信じていたけれど、その願いは呆気なく蹴散らかされてしまった。



「ねー、聞いた?紺野くんってば、天宮さんのこと、かばってるよね!?」

「きゃー、やだー!」

「あんな地味な女のどこがいいんだろうね!信じられなーい。」



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